そんな自然環境が生み出した知恵の保存食「きんこ」。
琥珀色で懐かしい素朴な味。
サツマイモの一種である
ハヤト芋を茹でて干した干し芋は、
この地域できんこと呼ばれ、
一般家庭でつくられていた家庭の食である。
同じ志摩地方でも
「煮切り干し」「にっきんちょ」と異なる
様々な呼び名で親しまれる身近な食品である。
The preservation food "Kinko" (dried potato) is produced in Shima. Kinko has a simple taste with yellow collar.
This is made from Hayato potato which is kind of sweet potato. It has been a domestic meal made at home.
It is the familiar food in the same Shima district.
安乗にある上田商店は、昭和49年、
きんこを志摩地域以外の人にも食べてもらおうと、
商品としてのきんこ作りを開始した。
しかし家庭で消費する程度の量であればさほど
問題にはならなかったが、製品として販売する量を製造しようとすると、
比較的温暖な気候の志摩で無添加の自然製法では
カビや腐敗という苦悩に直面したのである。
それでも無添加の自然のままの味を届けたいという
信念は曲げられない。幾度も失敗を重ねながら、
あきらめずに製造工程の研究と改善を繰り返した。
昭和55年。6年の歳月を経て、念願の「きんこ芋」が完成した。
店主の口癖は「日進月歩」。
店主の苦労の甲斐あり、この商品が完成し、
全国の消費者に届けることができるようになった。
一方、娘は難しい年頃になり、
父である店主の大切な商品「きんこ芋」が店頭に並ぶことを、
恥ずかしく思うようになる。
大手小売店との販売契約が取れ、
喜ぶ父を目の前にしても、心から喜べなかった。
それどころか親不幸にも、冷たい一言を投じてしまう。
親の心子知らず、である。
卒業しても家業を継ぐことは考えられず、
自らの道を進み始める。
また弟も同じく自らの道を進み始めたが、
ある日、一歩前進した弟が感謝の意を込めて
「上田商店」を文字にした。
自らの道を進むことができたのは、
父の「上田商店」に育ててもらったおかげ。
そのとき娘は守らなければならない大切なものがあることに
初めて気づいたのである。
そして上田商店を継ぐことを決心し後に弟も加わり、
今では家族とともにみんなで上田商店を支えている。
ただ、今でも父に向けて過去に放った冷たい一言を
謝れずにいるという。
その一言を悔いながら、人の心の大切さを思い感じている。
現在は、原料の芋作りから手がけるようになった。
しかし年々進む地球温暖化の影響が
きんこ作りにも出始めていることを
肌で感じるようになったという。
そんな中、上田商店はより良いきんこを作るため、
今でも日々研究を積み重ねている。
なにごとも、日進月歩。
家族の愛情がこもった名産品を是非、味わってほしい。