コラム41

2019年6月12日

職人による値付けとストーリー

 

長野県の戸隠へ訪問した。そこには、昔から根曲がり竹による竹細工の技術が継承されている。しかし、近年、竹細工だけでは生活できないため、職人が減って行った。今回、戸隠の竹細工センターの中で竹細工を販売している人と話し込んだ。いろいろ質問をしているうちに、店中に並んでいる竹細工の背景にあるストーリーを聞くことができた。「このざるは、80歳の方が制作したものであるが、残りはわずかしかなく、それが売切れれば、終了ですよ。」、「こちらのざるは国産の竹ですが、根曲がり竹ではないので安いのです。」、「これが高いのは細い部分が難しいからですよ。」などなど。私は、最初に店の中を一通り見て回った時には、ザルの機能を金額に換算し、その機能を果たすことに何千円、という値段がついていると解釈し、高いなと思ったが、なぜ、根曲がり竹を使っているのか、それをつくった職人は最後の職人だとか、根曲がり竹のしなる特徴を使っているとか、この茶色くなっている部分は、実は、古いざるの色がいい色に変わった部分をほどき、新しいざるに再利用しているだとか、ストーリーを知ることによって、何千円という値段がむしろ安く感じるようになった。自分が機能で物の価値を測っていることに改めて気づき、大いに反省する旅行となった。