コラム83

Backcastingからバックキャスト思考への道のり~バックキャストがイノベーションの源泉になる必然性~

 

利便性のみを偏って追求していると、利便性導入以前に存在していた豊かさが見えなくなる。例えば、人は石油由来の燃料を使い手元を明るく照らして生活をしているため、奇麗な星空の存在を忘れてしまう。90歳前後の方は東日本大震災直後に停電になった時に戦前のころよく見ていた奇麗な星空の存在を思い出したという。明かりが照らされれば、照らされているところは良いが照らされていない時に見えていたものが見えなくなる。速く移動する良さに気を取られていると、ゆっくりと旅する楽しさを忘れてしまう。もちろん、逆にゆっくり移動する良さに慣れていると速く移動する良さを忘れてしまう。便利・快適な暮らしに制約がかかると、そうでなかった頃に体験できた豊かさが体験できるようになる。これがバックキャストで豊かさが再発見されるしかけである。人が価値観を変えることができれば、いずれの世界でも豊かさを得ることができる。価値観の切り替えが苦手な人は、どちらかでは豊かさを感じるが、もう一方では豊かさを感じなくなる。したがって、変化が激しい社会では、価値観の切り替えが得意な人が心を満たすことができ、価値観の切り替えが苦手な人は心を満たすことができない。バックキャストはその切り替えをする手法であり、切り替えがスムースにいかない社会ではバックキャストがイノベーションの源泉になり得る。