コラム93

2021年8月12日

生物の凄さ-アナロジーによる探索-

 

トンボは生物の中で最も低速で滑空できる生き物として知られている。羽のギザギザは一見すると空気抵抗が増すだけに見えるが、この微妙な形状によって空気の渦が生じ、この渦がボールベアリングのような役割をし、外側の空気をベルトコンベアに載せるように、後方へとスムースに流し、その結果、ほんのかすかな風でも浮力に変えることができるようになっている。これを応用すれば微風でも回転する風車をつくることができる。また、蚊に刺された時、人間は痛みをほとんど感じない。多くがかゆみを感じて刺されたことに気づく。これは蚊の唾液に麻酔成分があること、針の細さ、そして、針の差し込み方に特徴があるからである。蚊にはストローのような筒状の針だけでなく、のこぎりの歯のような形状の針が複数あり、後者が上下に振動して、皮膚を切り裂くことで、接触面積を小さくし、血を吸われている動物に痛みを感じさせないからである。これを応用すると、無痛注射針をつくることができる。これらの事例のように、生物の凄さを人間が応用してものづくりに活かす場合に、アナロジー(類推)が使われる。「弱い風から力を得る」、「周囲への影響を最小限にして針を刺す」といった生物界と人間界で共通している概念をマッチングし、応用可能な概念や技術を生物界の中から探すことが行われてきた。製品化までたどりついた多くの製品が存在していることから、有効な方法であると考えられる。ネイチャーテクノロジー創出システムと呼ぶ自然に学ぶために開発された方法はアナロジーを用いている。オントロジー工学とTRIZを組み合わせている。