コラム94

2021年8月29日

生物の凄さ-暮らしと生物をつなげる方法-

 

高効率・高性能な生物機能を材料設計に取り入れるバイオミメティックスの研究が活発化している。産業界では蓮の葉を利用した雨水で洗浄可能なペイント、ヤモリの足裏の微細構造からヒントを得たロボット、サメの皮膚を模倣した高速水着、ハコふぐの骨格を取り入れた車体設計など商品開発が行われている。しかし、生き物の種類は150万種以上と言われており、膨大な数の機能が研究報告されているが、アナロジーを使えば良いとは言っても、それだけで目的を達成してくれる技術を持つ生き物にたどり着くことは容易ではない。逆に、どの生物機能に着目すれば企業の新技術・新材料の開発に役立つのか、また、最適な材料設計にたどり着けるのか不明であった。一方、工学的な課題解決法の一つで、機械工学における材料設計のアイデア創出法として、TRIZが1990年代から様々な分野で取り上げられるようになった。TRIZとは、ロシアの特許審議員が、約250万件の特許を調査してその中にある規則性を体系づけた“発明的な問題を解決するための理論”である。この方法の特徴は、250万件の特許例を解析して得られた40個の問題解決の原理を用いて、解決したい問題をパターン化することで問題解決のヒントが得られることにある。Vincent氏はこの解決原理を用いて生物機能を体系化する新しい概念であるバイオTRIZを提唱した。この概念を用いれば、地球環境制約下での暮らしにおける問題を抽出し、問題解決してくれる機能を持つ生き物にたどり着けるのではないかと考えた。これがネイチャーテクノロジー創出の中で暮らしと自然界をつなげる第一歩であった。