コラム97

2021年10月9日

時間を考慮したベストソリューション

 

イノベーションには時間がかかる。例えば、日本では洗濯機は普及率が50%から100%になるまで約12年かかった(1972年に100%)。冷蔵庫は約8年(1973年に100%)。エアコンは約8年(1987年に100%)。自動車は約11年(1987年に100%)。テレビは約2年(1974年に100%)。PCは約6年(2006年に100%)。また、いずれも普及率が0%から50%になるのにより時間がかかっている。ライフスタイルイノベーションはさらにかかっている。私のヒアリング調査によると、茅葺屋根の吹き替えを近所で行っていた最も新しいのは千葉県の昭和40年代前半である。戦後、20年経過した後のことである。富山県のとある地域で各切(かくせつ)は農薬を使い始めたころに川から魚が消えたとほぼ同時に消えたと言われている。これは室町時代から各切と呼ばれ継承されてきた約900年以上前からの文化であった。戦後に変化が起こったとして、農薬の生産量が1975年から1985年あたりに急上昇したことを踏まえると、1980年代には各切は消滅していたであろう。約900年の歴史を持っていたとしても、あっさりと消滅し始め、戦後35年程度で消えてしまった。とはいえ、時間軸を戦後のみに戻すと35年程度を要して変化している。ライフスタイルイノベーションも時間がかかるのである。このように時間がかかる変革を、2030年に向けてどのよう変えていくのか、2050年に向けてどのように変えていくのか、目標を定めた後に、時間を考慮したベストソリューションを探さなければならない。どの技術を利用するのか、どの方法を利用するのか、全て時間軸の制約がかかっていることを忘れてはならない。これがバックキャスティングを利用する二つ目の利点である。目標達成のためには、いろいろなことができなくなるだろう。