コラム117

2022年8月8日

失われつつある暮らしの価値の伝承の実証

 

90歳ヒアリングによりこれまで戦前の暮らし方の共通点を見出し、それを44の失われつつある暮らしの価値と呼び、これらをどのように継承できるのか、検討を続けてきた。仙台にその暮らしの価値を継承するために、未利用であった森や土地を、44の価値を利用して、地道に、新しく生まれ変わらせた人たちがいる。江戸時代より代々受け継がれてきた敷地を地域に対して開き、長い年月をかけて大きく成長した樹木が屋敷林となっていたものを利用したのである。嵐が来ると枝が落ちる危険性があるため、近隣への安全を確保しつつ、伐採し、これらの木の一部を使っておしゃれな蔵をつくり、カフェをつくり、そして、物作りが可能な陶器の工房をつくった。その一帯には風が通る木々の通路があり、DIYでさらに大人たちがつくりながら、周囲の子どもたちも含めて考えながら構築されていく。障がい者関連施設も設置され、夕方賑わってくる。木々の高さのためか、風が吹くと遠くから音が聞こえ、森の中にいるような感覚を得る。それだけで異空間にいる気がする。44の価値という古くからある価値観を意図的に導入するものの、そこには昔に戻った感覚はない。そこに存在する暮らしの中身はまさに今の出来事である。価値観を伝承した未来の姿はこのようなものなのかもしれない。