コラム82

2021年2月19日

Backcastingからバックキャスト思考への道のり~制約の中の豊かさ~

 

ライフスタイルを数多くデザインしていくと、これ以上アイディアが浮かばなくなる最初の壁が30種類程度デザインしたところで現れる。これは将来問題の発見でクリアできる。そして、70種類程度デザインしたところで、二つ目の壁が現れる。心の豊かさとは何かについてわからなくなるのである。心豊かさについてはまずは自分が心豊かだと思うことを探せばよい。美味しい物を食べる、人に認められるといった欲と言われるものや、楽しいことをする(楽しみ)、自然の中でのんびりする(自然)、人助けをする(社会とのつながり)、技を磨く(自分成長)などがある。これらは多くの人が心豊かだと思う要素であり、読者の皆さんも多くの人が心豊かだと思うだろう。一方、かつて、髪の毛が多い人の髪を抜いて、髪の毛がない人にあげる、ということが心豊かだと言った人がいる。これは何%の人がそう思うだろうか。この事例は人によって同じ行動でも心豊かに思う場合と思わない場合があることを意味する。具体的なシーンを思い描くと心の豊かさは数多く見つかる気がするが、上記のように「楽しみ」や「社会とのつながり」というように一般化すると急に種類が少なくなってしまう。そのため、二つ目の壁を越えるためには、具体的に考えれば良いかと安易に考えた。しかし、新たな心の豊かさの要素は増えていかず、その原因がなぜなのかわからなかった。ところが、その当時、90歳ヒアリングと呼ぶ戦前の暮らしの調査を進めていた。戦前の人が心の豊かさを得る方法は特殊であった。その時に気づいたのである。「制約の中の豊かさ」の存在である。つまり、制約がある時にこそ感じる心の豊かさと、制約とは無関係で感じる心の豊かさがあるということだ。ゲームはルールがあるから面白い。ルールを破って戦うとつまらない。心の豊かさの源泉が「制約」であることがわかれば、簡単に二つ目の壁を越えることができたのである。制約を厳しくすればするほど画期的なアイディアが浮かぶようになり、200種類を超えてライフスタイルをデザインできるようになった。