コラム73

2020年10月4日

90歳が私に伝えようとしたこと~二つの正しくなかったこと~

 

戦前の暮らし方の中で、ネガティブな感情が湧き出て爆発してしまいそうな状態になることがある。戦争のことと嫁のことである。太平洋戦争が始まる前に成人していた人をヒアリング対象としていることから、ほとんどの90歳の男性は戦争に行っている。ご本人はご存命なので、ほとんどが死ぬ思いを体験し、奇跡的に生還している。奇跡は1,2回ではない。3回命拾いしたという方が何人もいた。そのぐらいの奇跡が起こらないと戻ってこれなかったのだろう。90歳ヒアリングは戦前の暮らし方の調査を目的にしているので、本来は戦争の話を伺うべきかもしれないが、それは別の機会にということで日常生活の話を伺ってきた。同じ地域に住んでいた仲が良かった友達が10人亡くなった。皆で並んで遺骨を出迎える。軍役の義務が重たかったという。もう一つが嫁のことである。お風呂に入るのは最後、水回りの仕事は嫁の仕事、嫁姑問題などである。戦前の暮らし方の中でどの家も役割分担がなされ、暮らしていたようだが、嫁の役割は何とも最適解には見えない。90歳になってもふつふつと怒りと共に思い出されることが、持続可能な暮らし方であるはずがない。実際に、三重県での海女さんへのヒアリングでは、男女がひっくりかえった役割分担になっている地域もあった。つまり、嫁が嫌な役割を分担するという暮らし方は、自然に寄り添う暮らしの中では最適ではないという証拠である。未来の持続可能な暮らし方を考える人は、昔が何でも良かったという認識は改めないといけないと思う。90歳から教わった「自分次第だよ」「工夫しなさい」「勉強しなさい」という数々の言葉は、このことを指していたのかもしれない。