コラム71

2020年9月11日

90歳が私に伝えようとしたこと~簡単に崩れていくものだ~

 

海沿いで山に囲まれたある地域では、戦前までは、海の幸・山の幸、米・麦もあり、畑をして野菜を育てる自給自足の暮らしをしていた。まさに、豊かな暮らしである。どのようなお店がありましたか、と尋ねるとお店の数も少ない様子であった。その中に、1軒の八百屋があったというのである。自給自足をしている小さな集落に八百屋が1軒とはどういうことなのか。90歳前後の話をしてくださった方が言うには、その八百屋では飴玉を売っていたというのである。野菜は家でつくっているので最初は不要だが、飴玉は珍しく、食べてみたいので買うのである。そして、その店に何度も足を運び、飴玉を買ううちに、八百屋で売っているよそで育てた野菜でも買ってみようかと手を伸ばしたそうだ。これが自給自足の暮らしが崩れていく最初の第一歩となる。それでも自給自足の暮らしが一気に変わることはないのだが、徐々に変化していくことになる。最終的には、その地域で八百屋は1軒だけは存続できたそうだ。その地域に伝わる在来知の多くは、大きな痛みもなく、失われていったのである。今後、私たちの社会で起こす必要があるライフスタイル変革もこのように痛みもなくいつのまにか変わっていくことができないものか。90歳の方々は私たちに重要な示唆を与えてくれる。